遠くの戦争〜日本のお母さんへ〜

    2010.09.20 Monday
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    久々に鉄人の街に行ってきた。その商店街の建物の一室で朗読劇があったのだ。客席は階段状に五段で、それぞれ八つのパイプ椅子が並べられていた。僕は一番前の上手側に座った。舞台は黒で統一されており、舞台の中央が二段高くなっていて椅子が一台ずつ置かれ、両脇にも椅子が数台、僕の目の前に三台置かれている。天井に設置されている照明は様々な方向を向いていて客席に向かっているのもある。そして真正面に廃墟のようなモノクロの写真と共に「遠くの戦争〜日本の母へ〜」とプロジェクターで映しだされていた。

    時間になると代表の方が登場して、ゆるい話があった。朗読劇なので眠たくなるかもしれないが、そんな時は寝て下さいと。でも鼾はかかないでくださいとのことだった。実は僕自身もそれを心配していたが、しかし、とてもそんなレベルの芝居ではなかったのだった。

    登場した役者の人たちは様々な年代の方が入り混じっていて、それだけで何かほっとするようなものを感じた。物語は、日本の里親である女性ととレバノンに住むパレスチナ難民の男の子との手紙のやりとりが基軸となって展開していく。母とその男の子だけは一人一役だが、総勢六〇数人の登場人物があり、多い人で一人六役ぐらいを兼ねていた。しかし、混乱させられることもなく、それぞれのキャラがしっかりたっていて、充分伝わってくるものがあった。

    母は月々5000円をレバノンの里子に届けている。しかし、パートの勤めを二つこなしながらやっとの生活を日本で送っている。離れて暮らす本当の息子は、正社員を目指し派遣の仕事をしていたが、やがて首を切られる。5000円も里子に支払っている余裕なんてないだろうと母に詰め寄る。「貧困層にとって平和よりも戦争があるほうが、失うものが何もない貧困層にとって、チャンスになるんじゃないか」、と赤木智弘氏の言葉を織り交ぜながら物語は進んでいき、やがて息子は自衛隊に入隊することになるが…。

    この他にも様々な物語が織り込まれていく。過労死した息子を持つ母。トラックの運転手としてイラクに派遣され、被爆した貧困層のアメリカ人。虐殺された村を取材をした時に、戦車の上でビーチパラソルをひろげくつろいでいるイスラエル兵を見て、泣きながらその場を去った広河隆一。里親運動を展開する広河に対して、「子どもに菓子をやるな。甘やかせば銃を持たなくなる。」と暗殺命令を出す過激派。その過激派の事務所にデモをするパレスチナの母親たち。沈黙を破り、無差別にパレスチナ人を襲撃したと証言するイスラエル兵。それを取材した土井敏邦。その他にも雨宮処凛、堤未果、大江健三郎という役名の人物も登場し、著書が引用されていく。

    貧困、労働、自殺、戦争、様々なことがLINKして、幸せってどういうことなんだろうと考えさせられる。2008年12月27日から翌年1月17 日までのガザへの攻撃で亡くなったパレスチナ人は約1400人。日本の1年間の自殺者は約3万人であるが、それをガザ攻撃の22日間へと換算すると約 1800人。戦争がないはずの日本のほうがガザよりも死者が多いこの現実に、あらためて打ちのめされる。諸外国との戦争はなくとも、それは引き籠りとして、ニートとして、そして自殺として、内なる戦争は起きているということだと、この芝居は伝える。

    先日も玉本英子さんの講演会で、今のイラクの様子を聞いてきたが、その中で一般家庭を取材した映像があった。中流よりは少し上の家庭らしいが、少なくとも僕の生活よりも裕福であると感じられた。アメリカや多国籍軍にさんざん破壊されてきたあのイラクなのにだ。電気は一日数時間しか通電しなく、水は時々止まるような生活なのにだ。ひとつひとつの部屋は広く、電気製品もあふれ、突然訪問した玉本さんたちにケーキや飲み物を出す余裕まである。これが上流家庭となると、家は総大理石となって、日本の上流家庭などとは比べ物にならないらしい。

    日本は外国と比べて見ても、本当は経済的に見ても裕福じゃないのだ。その上自殺者が年間三万人という心の貧困さまで加わっている。日本人は、あのマトリックスのように、何か虚像を見せられて生きているのではないかと思えてくる。目の前にあるものを疑わなくてはいけない。

    里子に送る最後の手紙の中で母はこう綴る。
    「日本にはたしかにパレスチナと同じように爆撃を受けた広島があるが、いまの日本は人の痛みを感じないイスラエルに近づいてきている。」と。



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